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PET2001コンピューター

スペースエイジ家電は照明器具を筆頭にラジオ、テレビ等多くの魅力的な商品があります。
そこでコンピューター(パソコン)はどうでしょうか。パソコンが広く一般家庭に普及したのは
’90年代以降です。それに対し、スペースエイジが流行ったのは’60~70年代ですから対象
となるプロダクツが年代的に存在しない気がします。しかし!あるのです。一般向けに大量
生産されたスペースエイジパソコンが。それが今回取り上げるPET2001コンピューターです。

PET2001は’77年に米コモドール社から発売されたコンピューター。主催者が始めて見た
のは’81年頃でパソコン解説本の掲載写真でした。そこには国産と海外製の個人向けパソ
コンがカタログ形式で紹介されていたのですが、国産がNECのTK-80とかパナファコムの
L-kit16等の基板むき出しのトレーニングキットなのに対し、海外製のはアップル社のアッ
プルⅡ、タンディラジオシャック社のTRS-80、そしてコモドール社のPET2001等、商品として
完成された状態だったのが印象的でした。当時パソコンはマイコンとも言い(マイクロコン
ピューター、myコンの意味も)、国内製の商品は基板むき出しで正にマイコンと言うイメージ
なのですが、海外製のパーケージされた商品はすでにパソコンと言った方がしっくりきます。
海外3機種の当時の感想を申しますと、一番人気があったのはアップルⅡ。値段は40万はし
たと思います。しかし筐体のデザインは印字部が無くケツの長いタイプライターの様です。
TRS-80はデザインは格好いいのですが、筐体の作りは雑らしく、別の雑誌には”パソコンを
インテリアとしても考えている人には不向き”と書かれていました(そう言う人にはシャープMZ
-80Kの方が良いとの記載も)。そこでPET2001。まともに紹介された記事を主催者自身は見
た事が無かったのですが、一番印象に残ったのはこれ。筐体は複雑な形状にもかかわらず
継ぎ目の無い一体構造でアイボリー色。上部に付く一体型のモニター部は台形。キーボード
は見慣れたタイプライター型では無く、良く分からん小さなキーが並んでいてます。更に横に
はデータレコーダー付き、とまあ昔のSF映画のコンソールメカを髣髴とさせるデザインなの
です。しかしいくらデザインが良くてもスペック等も含めた評判が分かりませんでしたし、どの
道、当時は買えるだけのお金もありませんから、写真を見ただけで終わってしまいました。

今回のPET2001は最近になってジャンク品を入手したもの。今となっては完全にアンティーク
PCなので、スペック云々を言うのはナンセンス。そこでヘンに改造等せずオリジナルの状態
で起動させる事を目指します。

PET2001コンピューター


入手時の状態ですが、まず電源を入れても何も反応しません。調べてみると、システム全体
に電源が供給されていません。本機の背面に電源スイッチとヒューズホルダーがあるのです
が、ヒューズホルダーの金具が断裂しており、電気が導通しないのが原因でした。そこでこれ
を取付け穴が合う別のホルダーに交換します。下の写真左がヒューズホルダー交換の為に
カバーを開けたところ。普段ゲーム基板等を見慣れているせいか、驚くほどシンプルな基板で
す。本体左上に大きなトランスが見えますが、ヒューズホルダーはこの裏にあるので、交換の
為にトランスの固定ネジを外しています。写真右はヒューズホルダー。向かって右がオリジナ
ル。使われているヒューズは1.6A。スプリング入りなので最初は速断タイプと思いましたが、
実際はスローブロータイプの様です。このあたりは気にせず普通のタイプで問題無いでしょう。
新規に取り付けるのは小型のミゼットヒューズですが、取付け穴の合うホルダーがたまたま
ミゼットタイプだったと言うだけで、特に深い理由はありません。

入手時の内部とヒューズホルダー


電気が供給される様になったところで、おそるおそるスイッチONにします。・・・しかし何も映り
ません。ロジックICのVCCに電圧は出ています。現状ホコリだらけだし、動かなくても不思議で
はありませんから次に基板をクリーニングします。電子基板のクリーニングには古くはフロン、
それ以外ではイソプロピルアルコール等が使われますが、主催者は持っていないので普通の
シンナー(塗料薄め液)を使用します。状況に合わせてシンナーのタイプを色々変えています。
下の写真左が洗浄後の基板。まだ若干汚れが残っていますが、これ以上洗浄すると一部の
ICの文字が消えそうだったのです。ちなみに右がCPU、6502です。初代ファミコンのCPUが
これのカスタムと言うのは有名ですね。

基板をクリーニング


で、また起動するか試してみます。すると・・・。映った!何やら画面の文字がウネウネとデモ
表示をしています。最初「なんか手の込んだ起動画面だなぁ」と関心したのですが何かヘン。
いつまでもこの状態で、キーを叩いても変化しないし、どう見てもラスタの異常だぞこれは。

画面が不思議なスクロールをしている


うう~む。基板ボードからのビデオ信号の異常か、モニターの異常かのどちらかです。とりあ
えずモニターの方から調べます。CRTモニターの場合、ブラウン管が光れば水平発振はして
いますし、画面を見たところ水平同期も異常はありませんから、問題は垂直の部分しか考え
られません。本機は水平と垂直が別々に出ているので、同期分離回路もありません。そこで
まずは怪しそうな電解コンデンサを交換してみます。どっち道、今現在不良じゃなくても交換
した方がいい部品です。まずは手持ちであった物から交換してみる事にします。下の写真が
交換前のモニター基板。こちらもホコリだらけなのでまず洗浄してから、コンデンサを交換。

モニター基板


そして交換後に元通りセッティングしますが、ブラウン管にソケットが刺さりません。良く見る
とブラウン管のピンが曲がっていました。そこで曲がったピンをそうっと元に戻しますが、そ
の時かすかにシュ~ッと言う音が・・・。アカン!やってもた!!そうですガラスにクラックが
入り、エア混入です。普通はピンを曲げたぐらいでガラスが割れると言う事はまず無いと思
いますが、なんてこった。ガラスが特に弱い個体だったのか、サビらしきものが見えるので
それが原因か。どちらにしろ、ちょっとでもシュ~等と聞こえたらもうダメです。開き直って
足をキュッと曲げたら、ガラスがパリッと取れました。それが下の写真。どうするワシ。

ブラウン管お亡くなり


うぅ~もうこのブラウン管は使えません。うなっていてもしょうが無いので他のモニターに映る
か試します。まず15khz対応の液晶に繋いで見ましたが、映りません。やっぱ液晶ではきつ
かったか?と思い直し、ナナオのCRT14インチ業務用モニターに映してみます。このモニター
は同期信号の追従範囲がかなり広く、無茶な信号でも映る可能性があります。結果は・・・。
映った!白黒逆転してるけど。この時点で最初の画像の乱れはモニター側の不具合だった
事が確定です。

アーケードゲーム用モニターに映してみた


映像信号に任天堂VS基板用の色反転基板を挟むと色も正常に。結局同期信号は15khzと
いう事でいいのかな。ただ、垂直同期がかなりシビア。もしかしたら同期信号も反転している
可能性あり。もし同期を反転させて安定するなら液晶にも映る可能性がある。未確認ですが。

色反転基板を挿入


壊れたモニターはすぐに対処出来ないので一旦ほっといて、他の部分(データレコーダー)を
見てみます。スイッチを入れると、モーターが回っている音は聞こえますが、テープ巻取り軸
は回りません。キャプスタン(定速でテープを送る軸)の方は回っているかどうか良く分かりま
せん。まあ普通この手のメカが無故障という事は絶対にありえませんから動かないのは想定
内です。下の写真が分解したところ。案の定、ゴムベルトがカチカチになって切れています。

データレコーダー修理


切れたゴムベルトは良く似たヤツ(1.2mm角φ80~90mm?)に交換。するとアッサリ復活。
テープレコーダは安物の方が壊れにくいし修理も簡単とはよく言った物ですが、これほどす
ぐに直るのも珍しい。いや、実際にプログラムのセーブ&ロードが出来てから言うべきか。

ベルト交換


さて、モニターですがオリジナルと同じ物は国内では入手出来そうにありません。ジャンクの
PET2001を部品取り用に入手するのも手ですが、いつになるやら分かりません。PET2001
のモニターは9インチです。そこで何でもいいから9インチ白黒ブラウン管のTVを入手して乗
せ替えが可能か考える事にします。そこで入手したのが東芝製のTV。年代等は不明だが、
恐らく’70年代だろう、ブラウン管の詳細が知りたいが、買う前にそんな事を知るのは無理
だろう、と言う訳で適当に入手。価格は1500円。元々ジャンク品だし、アナログ放送も終了し
ていますから、気兼ねなく部品取り。で、下の写真が用意したブラウン管。同じ9インチと言い
ながらも外形は僅かに小さいです。しかし何たる偶然!ブラウン管のネック部分の太さやピ
ンアサインがもとのヤツと全く一緒。無改造でそのまま乗せ替えが可能に。これはラッキー!
と思ったらブラウン管の多くは規格化されており、結構融通が利くのでした。

国産TVからブラウン管移植


そして恐る恐る電源を入れて見ると・・・。画像は映りました。しかし元のまま。ゆら~りと
ヘンなラスタースクロールを繰り返しています。未交換の電解コンデンサを交換しようにも、
手持ちがありませんから注文しなければなりません。そこでついに?オシロスコープを引っ
張り出してきました。実は主催者、1年ほど前に古いオシロを入手しました。しかしプローブ
が無かったので半年近く使用できず。その後プローブを買いましたが、やはり居間に置い
たまま全く使用しませんでした。その間も修理はちょくちょく行っています。要はオシロなど
面倒なので使わないのです。これは業務で修理を行った事がある人なら分かると思います
が、元々動いていたハードが壊れたと言う事はある程度修理の予測が立てられるのです。
そしてその部分を集中的に見た方が修理が圧倒的に早いのです。これが開発品とか、生
産途上で出た不具合で一度もまともに動作した事が無い品ならこうはいきません。修理は
推理だ!と言う言葉がありますが、ハード系に関しては一理あると思います。で、下の写真
が垂直同期を追った信号。左の写真で山の中腹に小さなトゲがあります。右の写真では大
きなピークに重なっています。ノイズが右から左へ流れているのです。要はヘンなノイズが
電源に混入しており、ノイズの流れに沿って画面が揺れていたのでした。

ノイズ混入


ノイズの犯人はこれ。電源平滑用の電解コンデンサ。こいつを交換するとオシロの画面から
ノイズが消え、下の写真の様な安定した信号に。そして画像の揺れも無くなったのでした。

ノイズ除去


早速PETに取り付けます。元のやつはブラウン管に取り付け金具が付いていましたが、こち
らには付いていません。そこでTVのケースにブラウン管を固定していた金具をそのまま流用
して取付けます。実際に取り付けると、画面の蛍光面のサイズはピッタリです。オリジナルの
外形が僅かに大きかったのは、金具のために外周が強化されたタイプだった為の様です。

モニター交換完了


次はキーボード。最初のモニター確認の時に”キーを叩いても変化しない”と書きましたが、実
際キー入力が入りません。かろうじてHとNが入っただけです。そこでキーボードも分解します。
しかも入手時からSHIFTキーが一つ欠落しており、この部分も何とかする必要があります。

次はキーボード


下の写真が取り外したキーボード。キー入力が入らないのはどこかでパターンが切れている
からだろう、と思っていましたがどこも切れている様子は無く、試しにピンセットでボタンの接
点をショートさせると普通に入力出来ました。目で見ただけでは分かりませんが、接点表面
が汚れて導通が悪かっただけの様です。表面をシンナーで拭いたらアッサリ改善。ところで
このキーボードの裏にはスタンプが押してあります。52.12.8と読めます。昭和52年なのか?
昭和52年ならば1977年なので年代はピッタリです。と言う事はこのキーボードは日本製・・?

キーボードメンテ


次は無くなっているSHIFTキー。下の写真左の上にあるのが他のキーから見本用に外したス
プリング。キートップもありませんが、その下のスプリングもありませんので、使えそうなのを
3本用意してその中から加工して作ります。下の写真右の上に2本並んでいるのが、見本と今
回製作した物。スプリングの直径を大きくするのは楽だが、小さくするのは手間が掛かる。

スプリング加工


次はキートップ。クリーム色のアクリル板を3つ切り出して貼り付けます。それをガリガリ削
りだして製作。前日に接着しておいて翌日削りだしたが、4時間ぐらいやってた気がする。

キートップ加工


キーのゴム接点部とは2mmのネジで接続。思いの他上手くいきました。最後にキートップの
ラベルをパソコンで作り、両面テープで貼りつけ。表面はメンディングテープで保護します。

キーボード修理完了


キー入力も全て入る様になりました。ついにプログラムを走らせて動作確認の時がきました。

キー入力確認


プログラムと言いましても、記憶媒体にセーブされた物はありません。紙に印刷された物が
あるだけなのでそれを見ながら一文字ずつ手打ちになります。動作確認はごく簡単なイラスト
を書き、それを実行、セーブ、更にロードしてみます。セーブはもちろん付属のカセットレコー
ダーに行うのです。まずはカセットにセーブとロードが出来なければ、長いプログラムはやって
られませんからね。下の写真はPETのマニュアルにあるロケットのイラスト。命令はPRINTと
GOTO文だけ。実行するとロケットのイラストが次々に上に流れていきます。うむ。動作はして
います。次はそれをカセットテープにセーブ、更にロードしますが・・・。いつまで経ってもロード
が完了しない。もうとっくに記録された部分は通り越しているはずだが。セーブされたテープを
ラジカセで再生してみたところ、録音レベルはやや小さいが、ピーガリガリ・・・と聞こえたので
記録はされているっぽい。PETの入力部の不良?いや、レコーダーの出力の不良か?しかし
記録はOKだが??そこでピンと来ました。一般のテープレコーダーの故障で、再生は出来る
のに録音は出来ない、と言うのがあります。この場合、原因の殆どは内部の録再切り替えスイ
ッチの接触不良。今回、セーブだけ出来てロードできないのは、同じ様に切り替えスイッチの
接触不良が原因なのでは?

プログラムとレコーダーの動作確認


そこでまたレコーダーをばらいてみます。するとありました。切り替えスイッチが。基板に付いて
いる銀色の長いやつです。下の写真中と右は記録時と再生時ですが、スイッチの黒いプラが押
されているのが分かります。この部分に接点スプレーをかけ、ギシギシと何度も動かします。

レコーダー録再スイッチクリーニング


そしてもう一度トライすると、今度は無事ローディングが完了!ラジカセで録音を確認すると
録音レベル(音量)も上昇していました。これで全ての動作が完璧かと一時は思いましたが、
すぐに新たな不安定要素が出てきました。何かの弾みにキー入力が狂う事があるのです。
例えばカーソル移動のキーを押すと、カーソルが移動せずにアルファベットのQが入ったり
する。このままではテキスト手打ちは不安と言うか無理。とりあえずキーボード接続コネクタ
と全てのICソケットに接点スプレーをかけて抜き差しを行い、様子を見ます。

ロード/セーブの動作OK


次はデータレコーダーチェック用プログラムがありましたので打ち込んでみます。しかし・・・。
明らかに変。打ち込んだ後、プログラムをLIST(清書)すると一部の文字が変化しています。
例えばJ→Iに変わっていたり、括弧 ( ) が一部消えていたりする。プログラムを走らせる
と当然エラーです。何度やってもダメなので路線変更。別のプログラムを打ち込んでみます。

プログラムはスタートレックとかエレベーター、3Dメイズとかがあるのですが、みんなそれ
なりに長い。まともに動くかどうか分からん物にそんな手間はかけられない。そこで内容は
良く分からんが、とりあえず一番短い物を選択。プログラム名はTAMUSHI SIMULATION。
タムシって何だ?あのカユイやつか?良く分からんが30行ほどのコイツを動作させてみる。

プログラムリスト


打ち込み完了後LISTすると、このプログラムでは2箇所の文字が変わってしまいます。かまわ
ずRUNさせると、画面に数値入力画面が出た後、ドットが表示されました。おぉ!と思ったの
も束の間、エラー表示と共にストップ。う~んやはりダメか。プログラムを修正したり、入れ直
したりしますが、変化無し。PET2001はスクリーンエディットが出来るので修正はラクな方らし
のいですが、一行が長く下の行にまで列が続く場合の修正は上手く行きません。改行は出来
ず、不要部分を消去してもLISTすると復活してしまいます。結局そこから下は全て打ち直しを
するしか無い様です。とりあえず具合の悪いプログラムですがセーブしておきます。そしてその
テープをロードすると・・・。前回まるでダメだったデータレコーダー用プログラムがなぜか正常
起動??今のプログラムはサーチはするものの、ロードできず。良く分からんが何かの弾みで
前のが動いたらしい。原因は不明だが、とにかくプログラムを正常に持ってく可能性があると言
う事か。そこで少し調べると、キーボードの " を入力すると一部のキー入力が狂う事が判明。
再度 " を入力すると正常に戻ります。そこでとにかく " の入力は2回入力して一つ消す、を繰
り返したところ、LISTしても文字が化けなくなりました。そして改行の不具合などを修正してRUN
すると、やっとプログラムがまともに動きました。下がTAMUSHI SIMULATIONの動作画面です。

まず下の画面が出ます。数値とか適当に入れます。そしてリターンキーを押すと・・・。

プログラム実行


あのぅ~これは・・・。一定時間が経つと画面がスクロールしてTIMESが進んでいきます。プログラ
ムはRUN STOPを押すまで延々と続いていきます。やっぱカユイやつの進捗なのかそうなのか?

このプログラムは・・・?


PET2001は無事起動しました。文字化けですがこのPETには後付でbasic programmer's toolkit
が付けられています。これは便利な10のコマンドを追加する物なのですが、もしかしたらこれが
影響しているのかも知れません。そこまでマニュアルを読んでいないので分からないのですが。

その内もっと面白いソフトを試したいものです。ちなみに今回のレストア期間は1ヶ月ほどでした。



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